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Hirai’s eye

やる気を生み出す練習環境とは

来シーズンを見据えたトレーニングを始めてから、1ヵ月以上が経ちました。社会人選手たちが来季も競技を継続するかという去就について考えている間に、東洋大水泳部の練習を開始したのですが、1年生部員の山口観弘や内田美樹たちの様子に変化が生じ始めました。生き生きと明るく、練習に取り組む姿勢が実に意欲的なのです。

ワンシーズンを終え、新入部員たちは環境に慣れてきたといえばそれもあるでしょう。選手も私も新たな環境で、「この選手はどんな感じなんだろう」「先生はどんな人なんだろう」と互いに様子を見ながら、手探り状態で最善策を模索してきたような気がします。

特に、山口は、鹿児島県の志布志ドルフィンズスイミングクラブでのびのびと練習しながら成長してきた選手です。それが上京後、世界レベルの社会人選手や、萩野公介らと一緒に練習する環境に一変しました。実力はもちろん、思考や人間性なども成熟レベルに達した選手らと一緒に練習することは、世界記録保持者とはいえ、何もかもの"当たり前のレベル"が高すぎて、戸惑うことが多かったように思います。

上京当時の彼は、「スクワットのフォームがよくなってきたので見てください!」と、無邪気に報告しにきていたのに、少しずつ覇気がなくなり、練習中も心ここにあらずという感じが目立つようになりました。背伸びし続けることでストレスがたまり、結果を出せない自分への不安や悩みもあったのだと思います。

しかし練習はもちろん、生活環境や態度も含め、当たり前のことができていないと、僕もつい口を出してしまいます。「それではダメだぞ!」と、気がつけば教育的な言葉しか発していない日々が続きました。それには僕自身も気づいていて、ガミガミやかましく叱り続けるのは、"彼らしさ"を押しつぶしてしまうのではないかと少し悩んだ時期もありました。でも、結果も出せず、当たり前のことができていない時こそ指導者が言い続けなければ、いつまでたっても人間的な成長は望めません。

そんなシーズンだったからこそ、学生だけの合同練習は、ずっと背伸びし続けて来た山口にとって、のびのびと自分らしさを取り戻す機会になったようでした。

「ここは自分の見せ場だぞ」とばかり、平泳ぎの練習では張り切りますし、「先生、ここの筋肉がついてきました!」と嬉しそうに報告しにくる。次第に本来の彼の姿を見られるようになってきました。

チームにはキーパーソンが必ずいるものです。山口が元気になってくると、チーム内の雰囲気も良くなる。それだけ山口はチームにとって大きな存在なのでしょうが、内田美樹や金指美紅もハードな練習をがむしゃらに取り組むなど、選手たちの"やる気レベル"は確実に上がっていきました。

そして、様々なレベルの選手が入り交じって練習することで、「あの子があれだけ頑張っているのなら、私はもっとやらなければいけないのかもしれないし、やれるのかもしれない」という思考にもつながっているようにも感じます。

実力別に編成したチーム練習では、「今の自分の実力はこんなものだろう」と自身の現状に疑問を持ちにくいものです。指導者が様々な形の練習を組むことで、選手たちが刺激や気づきを得たり、自分らしさを取り戻すきっかけにもなります。

練習環境はもちろん、指導者はそうした"頑張る空気"をうまく作り出すことが大事だと思います。例えば、チーム内に意欲が低い選手が2割いたとしても、8割の意欲の高い選手に与える影響はあまりありません。しかし、意欲が低い選手が3~4割ぐらいの比率になると、チーム全体の士気が下がり始め、頑張らない選手が増え出します。

それを防ぐためにも、最初から達成できないようなレベルの高い練習ではなく、意欲が高くない選手でも少し頑張ればやりきれる内容を、指導者は要求することが大事です。1~2日は頑張れるんです。でも、それを3週間やりきるとなるとかなりきつい。

「3週間頑張れば、かなりラクになるぞ!」と最初に伝え、頑張りきらせることができれば、選手は「やりきった」というかなりの達成感と自信がつきます。もちろん、きつい練習に体が驚いて風邪をひくなど、ドロップアウトしそうになる選手も出てきます。その場合は、選手が自信ややる気を失わないように、声をかけてフォローすることも指導者の役目です。

不思議なことに、脱落する選手がいる中で、最後までやりきった選手はものすごく生き生きし出します。そこで得た実感は、次のステップへのモチベーションにつながるのです。

やる気が出てくるポイントは人それぞれです。そういった面を探るべく、指導者は恐れずに様々な方法論を試すことが大事だと改めて感じています。新入部員が入る前の今のタイミングだからこそ、このチームにはそれが必要な時期だとも言えるのです。

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