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Hirai’s eye

結果が出ない時こそ、視野を広げる意識を!

新年度から1ヵ月経ち、私は東洋大学水泳部監督として2年目に突入しました。萩野公介や山口観弘、内田美希たちは2年生の先輩となって新入部員を迎え、新たなチームで走り出しています。
チーム平井のメンバーたちは、世界の舞台で戦う競技者であると同時に、大学生でもあります。有り難いことに、東洋大学は彼ら彼女らが競技に集中しやすい環境が整っています。寮からプールに近く、授業時間をのぞけば1日中、利用できる。加えて、遠征や試合で授業を休まざるを得ない時も、勉強を見てくださる教職員や教務課の職員の方々の多くのサポートを得ています。
選手たちは、こうした大学関係者の方々はもちろん、遠方から見守ってくださるご両親、応援してくださる地元の方々、メディアの方々を含め、あらゆる方面のサポートや支援があるからこそ、日々集中して練習ができているということを忘れず、感謝しなければいけません。

説教臭く聞こえるかもしれません。そうした感謝の気持ちがなぜ直接、競技の結果に結びつくのか、想像できない選手もいるでしょう。しかし、過去の実績を振り返っても、それに気づくことができている選手ほど結果を出しています。自分の競技のことしか考えられないような、視野が狭く浅慮な選手ほど、置かれた環境を当然のように思い、そうしたサポートが見えていない。残念ながら結果に結びつかない確率も高いように思うのです。

結果を残せる選手ほど、視野を広く持ち、あらゆることから貪欲に学ぼうとするので人間的成長が伴い、思考の幅が広がります。すると例えば、大事なレースで負けたとしても、落ち込んで自信を失うというマイナスな考えで終わらず、課題を見つけて「自分はまだ伸びしろがある」と喜ぶような、負けを成長に変えられる考え方につなげる場合もあるのです。私はこの視野を広く持つことがとても大事だと考えています。

よくあるのが、スランプに陥ると不安から焦りが生じて、視野が狭くなるパターンです。すると、競技に直接関わるような"一次的要素"しか頭に入らなくなります。「競技力アップ」「スランプ脱出」にまつわる要素が第一になり、それに直接つながらないように思えるものには一切関心がなくなる。
例えば、水泳を教えてくれるコーチの私の指示には従うが、親からの生活習慣に関するアドバイスには聞く耳を持たないというケースも挙げられるでしょう。そんな選手ほど、競泳以外のやるべきことが疎かになってしまい、生活そのものがだらしなくなってしまいます。そのような状態で競技に集中できるとは、私には思えないのです。

選手たちは競技生活だけでなく、寮生活、学校生活、私生活といった様々な生活があり、学生としてやるべき本分があります。勉強はもちろん、必要な書類の提出など、社会の中で生き抜くための最低限のルールをしっかり守ってこそ、周囲からの信用を得ることができ、生活基盤や気持ちもスッキリ整って日々の練習にも集中しやすくなる。これは社会人にも言えることですが、どんな雑務でも後回しにせず、すぐ片付けられる人間ほど、結果に結びつけているように感じます。

また、人との付き合いも大事です。自分たちと同じトップレベルの選手だけでなく、さまざまな立場の選手と話したり、水泳とは関係のない学部の友人たちと一緒にランチをして会話をしたりするだけでも、世界は広がります。視野を広げて得られた思考の成長から、メンタル面の変化につながり、スランプ脱出のきっかけに結びつくこともあるのではないかと私は考えます。

記録が伸びている時は成長意欲が高まり、自主的にいろんなことを吸収したくなるもので、視野は自然に広がります。しかし、調子が悪い状態が続くと視野は狭まり、競技に関係なさそうなことは極力やりたくなくなる。焦る気持ちは分かりますが、世界が狭まり、周りが見えなくなると、考え方が凝り固まってしまいます。脱出どころか負のループに陥ってしまいがちです。

「急がば回れ」という言葉がありますが、スランプに陥ったときこそ視野が狭まらないように意識し、「競技力アップ」とは一見関係のなさそうな"二次的要素"も大切にしてほしいと思っています。面倒だと思わず、日々やるべきことをきちんとやり遂げ、練習にしっかり集中できるような"心の環境"を自分自身で整えていく力を身につけてほしいのです。
もちろん、学生にはティーチングとして、私も口を酸っぱく言い続けていくつもりですが、選手自身の自主的な意識の積み重ねこそ、2016年のリオデジャネイロ五輪、2020年の東京五輪で結果を出すための土台に必ずなるはずです。選手の皆さんには、その重要性を肝に銘じて日々精進してほしいと思います。

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