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Hirai’s eye

チーム練習のメリットを最大化する

チーム練習のメリットを最大化する

9月中旬に国民体育大会の競泳種目が終了し、今シーズンの主な大会(東アジア競技大会は除く)は終わりました。

今シーズンを振り返ると、「リオデジャネイロ五輪に向けた1年目」というより、「ロンドン五輪が終わった翌年」という感は否めません。五輪が終わる度に感じますが、今回は特にそう思います。

 オリンピアンにとって、全身全霊をかけて臨んだ五輪の翌年は正直、力が入りにくくなります。特に社会人は年齢の壁を感じ、競技続行を覚悟しづらくなる。しかし、もし競技を続けるのであれば、五輪が終わった時点で次の出発に向け、気持ちを切り替えられるのが一番いいのです。

そんな中で、寺川綾はバルセロナ世界選手権でしっかりとメダルを獲得したのですから、さすがだと思います。でも、これで引退すれば、「五輪の翌年だから続けた」となるのでしょう。そんなことも含めて、やはり「ロンドン五輪が終わった翌年」なんだと思います。

社会人選手とは、「4年サイクル」で指導するという約束はしていません。考えた上で、来季も続けるのか、選手自身が判断し、私に伝えます。ロンドン五輪後、寺川綾、加藤ゆか、上田春佳の3人娘に話したのは、「今後のビジョンを考えなさい。そして、自分にとっての水泳を見つめなさい」ということでした。「綾が続けるから私も続ける」ではダメなのです。心の底からやりたいと自分が思えなければ、凄まじい練習などこなせず、世界で勝てない。だからこそ自分で考え、1年サイクルで決断してもらいます。

一方で、学生選手は、入学した時点で彼らの4年間を私が預かることになります。この時点で、同じ1つのチームでも社会人と学生のスタンスが異なり、来シーズンに向けたスタート時期がずれてしまいます。

昨秋、3人娘が競技を続けるのか分からない状態の中、北島康介、松田丈志がチームに入りたいと伝えてきました。高校生だった学生選手たちのスケジュールもバラバラで、結局、計画した練習を始められたのは、今年の1月からです。

チームとしての足並みが全く揃わない中、私自身も大学内での立場が確立できず、うまくコントロールしづらい、もどかしさがありました。それが今シーズンが終わるまで響き、選手たちには迷惑をかけたと思います。

 競技サイクルの違いによる指導の難しさも感じました。4年サイクルで指導できれば、様々な挑戦ができ、良い結果も悪い結果も五輪で戦うための戦術データとして蓄積できます。小さな成功体験を積み重ね、段階を経て成長すれば、計画の組み立てもチャレンジもしやすい。

しかし、1年サイクルだと、考えるスパンが短くなり、失敗できないという前提で指導を考えなければいけません。私自身の心構えが変わりますし、社会人選手はビックネームばかりですから、戸惑いがないと言えば嘘になります。

 そんな競技サイクル、競技力、年齢、性別、個性も異なる選手たちを大人数指導するためには、選手自身も「チームで練習する環境を選択した」という心構えの下、思考を変化させてほしいと考えます。

つまり、チーム練習のメリットとデメリットを把握して、うまく利用してほしいのです。メリットは世界レベルの仲間と競い合い、刺激を受け合いながら質の高い練習ができること。デメリットは私の指導が物理的に分散化され、マンツーマン指導が困難になるということです。

例えば、寺川はチーム練習のデメリットを克服して、メリットを享受できている選手です。こまごましたコーチの指示がなくても不安にならず、自分で考え、行動できる自我があります。

最初からそれが出来ていたわけでありません。彼女がチームに入った頃は、私自身、彼女に声をかける回数を減らし、コーチに依存しすぎない環境に慣れさせました。そんな環境の変化に恐らく戸惑いながらも、彼女は自問自答し続けて思考を変化させました。そうして芽生えた自我は、内面の自信になる。だからこそ、五輪後の限られた練習期間でも、きちんと調子を上げて結果を残せたのでしょう。 

社会人選手だけではありません。学生選手もチームで練習することの意味、そして、水泳を続けることの意味をしっかり考えてほしい。一人ひとりが自立心を持てば、チームで練習する最大限のメリットを享受できるはずなのです。

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